<著作からの抜書き>
【復興デザインの原則】
災害後の復興のあり方が厳しく問われる時代を迎えている、といって過言ではない。というのは、復興のあり方が、被災地における短期的な生活回復に留まらず、長期的な地域振興の命運をも大きく左右する、今日的な社会状況があるからである。それだけに、復興のあり方を運動論的に問いかける日本災害復興学会や復興デザイン研究会の果たすべき役割は、極めて大きいと言わざるを得ない。
ところで、その重要な役割を果たすにあたって、忘れてならない復興デザインの原則がある。それは、地域に密着して復興をはかるという「地域性の原則」、未来を展望して復興をはかるという「創造性の原則」、相互に協調して復興をはかるという「共創性の原則」である。これらの原則に基づいて、災害後の地域の将来像を描くのが復興デザインだと、私は考えている。
さて、地域性の原則では、地域の風土や文化を大切にし、地域の資源や知恵の活用をはかって、誇りうる地域のよさを受け継ぐことが欠かせない。また、創造性の原則では、地域の抱える諸課題の解決をはかりつつ、希望のもてる理想社会の建設に挑戦することが要求される。さらに、共創性の原則では、互いの立場や考え方の違いを認め合いながら、連携し協働することが必要となる。
そこで、この原則に照らして、新潟中越地震後の復興をみると、将来に受け継ぐべき貴重な成果を、少なからず認めることができる。自然との共生を心がけ、中山間地の原風景を継承していること、農業はもとより闘牛や養鯉などの地域に密着した産業を大切にして、地域の復興像を描いていること、伝統的な様式を踏まえ、地域に密着した復興住宅モデルを提示したこと、若者が高齢者と一体となって、世代を超えた村ぐるみの復興を実現していることなど、他の地域に発信すべき貴重な成果が得られている。
中越から能登半島さらには中越沖へと、この数年間の被災地復興の取り組みは、非常時の復興再生にとどまらず、日常時の地域づくりへのコペルニクス的な転換をもたらしつつある。日本災害復興学会と復興デザイン研究会は、これらの成果を理論的に分析し、教訓として普遍化させて、後世にまた世界に発信すべく、奮闘しなければと思う。
神戸新聞<随想>より