<室﨑益輝のつぶやき>
【経済の制約や時間の制約を乗り越えよう】
昨年末に、再び四川大地震の被災地を訪れるとともに、四川の復興都市計画関係者と議論を持つ機会を得た。復興に真摯に取り組んでいる関係者と何よりも逞しく復興しようとする被災者のパワーをことは、一筋の光明を見いだした気持ちがして嬉しかった。被災地で再建に取り組む四川の皆さんには、心からの敬意を払いたいと思う。
とはいえ、進んでいるかに見える復興の影で、将来の希望を見いだせずに悲嘆にくれている多くの被災者がいることも、垣間見ることが出来た。いわゆる復興格差あるいは復興災害の問題である。路頭に迷い将来の展望を失っている被災者が少なくないと聞いた。阪神・淡路大震災と同じことが繰り返されている事を知って、胸が痛んだ。
被災者にとっての阪神と同様に最大の問題は、住宅と仕事の確保のメドがつかない、という事である。都市部の商店主などの中小企業関係者は、郊外の不便な土地への移転を強制され、不満を募らしている。農村部の農業関係者は、集団移転は免れたものの住宅の集約化や共同化を強制され、これまた不満を募らしている。その最大の原因は、トップダウン方の計画づくりにあるといって過言ではない。
世界遺産のある都江堰市でも、一見とても素晴らしい水と緑の復興計画が日本の関係者の協力も得てつくられているが、とても称賛できるものではない。その計画によって、無数の被災者が都市部から追い出されるからである。その被災者のことをどのように考えているのかの答えが見えない限り、批判こそすれ評価することは出来ないと思っている。説得と納得、合意と内発がなければ、復興は進まない。これは阪神の教訓であるが、国情が違うとはいえ、四川でも同じはずである。
このトップダウン方式の最大の問題点は、第1に経済優先の発想が貫かれている事である。企業と一体で集落開発をすると個人の再建費用は無くて済む、農家の集約化や共同化をすればライフラインのコストが安くなるということで、企業の誘致や集団化が促進されようとしているのはその一例である。行政主導ということで行政の経済優先の論理が被災者の生活優先の論理を押し退けている、といってよい。
第2の問題点は、復興を急ぐあまりに「いつまでに計画の作成を」「いつまでに住宅の建設を」と、常にせき立てられた形で復興が進んでおり、十分に計画内容を検討する時間もなければ被災者の意見を聞く時間もない、という事である。復興の原則に、「総論は早く各論は遅く」というのがある。急がば回れということで、じっくり議論をして被災地や被災者の復興力を高める努力をしてほしいと思う。
2009年01月08日